悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン 2016

4.悪性高熱症の病態生理

MH の素因者

  素因者では,骨格筋細胞内のカルシウム(Ca)貯蔵庫である筋小胞体から細胞質内へのCa 放出機構が異常に亢進している.

MH の主な症状

 代謝の異常亢進を示すことから,初発症状として,55 mmHg を超える,説明のできない呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO2)の増加,原因不明の頻脈,筋強直(開口障害を含む)な どが知られており,15 分間に 0.5°C以上の体温上昇速度が認められ,40°Cを超えることもまれで はない.高度な呼吸性・代謝性アシドーシス,不整脈を呈し,尿の色調は,発症後は次第に筋 肉崩壊により赤褐色,コーラ色となる.また血清カリウム値は上昇し,心電図上はテント状 T 波を 示し,心停止に至ることもある.さらに多臓器障害(disseminated intravascular coagulation: DIC,腎不全など)を発症し,救命されたとしても,筋肉障害(歩行障害など) や意識障害などの後遺症が残る.

MH の誘発薬剤と原因

 ハロタン,イソフルラン,セボフルラン,デスフルランなどの全ての揮発性吸入麻酔薬,およびスキサメトニウムなどの脱分極性筋弛緩薬が誘発薬である.これらの薬物は筋小胞体からの Ca 放出 速度を亢進させる.素因者では筋小胞体からの Ca 放出速度が異常に亢進しており,筋小胞体 への Ca 取り込み速度を超えてしまうため,結果として,細胞内の Ca 濃度が制御出来ないほど異 常に高くなる.これが MH の本態である.なお鎮静薬,麻薬などは安全に使用できる.

骨格筋細胞内の代謝亢進:

細胞内 Ca 濃度が異常に高くなったままである.そのため骨格筋細胞内では,筋収縮が異常に持続し続け,ATP の消費も異常に亢進し,さらに筋小胞体への Ca 取り込みに伴う ATP 消費も 増大する.これらの ATP の異常消費により,大量の熱が産生される.また,ミトコンドリア内の Ca 依存性のホスホリパーゼ A2(PLA2)活性も異常亢進し,熱産生は加速される.こうした過程に より酸素消費量は増大し,二酸化炭素の産生も異常に亢進する.

参照 図1 悪性高熱症(MH)の発症機構と治療薬の作用

全身への影響

 全身の骨格筋の持続的収縮による温度上昇により,体温は急激に上昇する.また組織は低酸素状態となり,代謝性アシドーシス,さらには筋肉の崩壊を生じ,その結果,細胞内物質が 血液中に流入する.血中のカリウム,乳酸,骨格筋崩壊産物のミオグロビン,CK などが高値とな る.骨格筋崩壊産物により腎障害もきたす.

ダントロレンの薬理作用と MH の治療機序

 ダントロレンは骨格筋細胞内の筋小胞体からの Ca 放出チャネル(1 型リアノジン受容体:RYR1)に作用し,Ca 放出を抑制するため,MH の原因部位に直接作用する薬物である 1) 2).(図 1)

 本症の臨床的な診断にはわが国の診断基準 3)と,欧米で用いられている Clinical Grading Scale 4)が知られているが,このガイドラインでは主にわが国の診断基準 3)に基づいて記述する.

<引用文献>

  1. Harrison GG: Control of the malignant hyperpyrexia syndrome in MHS swine by dantrolene sodium. Br J Anaesth 1975; 47: 62-5
  2. Kolb ME, Horne ML, Martz R: Dantrolene in human malignant hyperthermia. A multicenter study. Anesthesiology 1982; 56: 254-262
  3. 盛生倫夫, 菊地博達, 弓削孟文 ほか:悪性高熱症診断基準の見直し.麻酔と蘇生 1988; 80: 771-9
  4. Larach MG, Localio AR, Allen GC, et al.: A clinical grading scale to predict malignant hyperthermia susceptibility. Anesthesiology 1994; 80: 771-9
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